政治的
トランプ大統領が示したもの
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イアン・ブルマさんが寄稿しています。タイトルは「トランプ主義を乗り越えて」。
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「トランプの登場を民主党は甘く見ていた」という指摘から始まります。かつて、民主党は「白人を含めて労働者階級の利益を代表」していたはず。共和党は「大企業と富裕層」を背景にしていた。
しかし、現実のアメリカ社会は「都市部の高学歴エリート」と「農村部や工業地帯の労働者」とで分断が始まっていた。
しかし、重工業の役割が縮小するに連れて農村部や工業地帯においては「進歩派」と「旧主派」に亀裂が生じていた。
人種問題や性的平等などに対して民主党は「旧主」的思考を一蹴することで「労働者階級」の離反を招いた。
そこにトランプが登場することで労働者階級の不満を吸収し右派ポピュリズムと共和党を結びつけることとなった。
トランプの登場は変化の原動力であったのか、あるいは、すでにあった社会の無節操さが迎合しただけだったのか。
拡大する貧富の格差、グローバル化の弊害は、社会を無節操な方向に仕向ける要因であり、民主主義の根幹を攻撃する要因となりうる。
そもそも論として、歴史は「偉大な個人」が作るのか、はたまた社会的、経済的、政治的な要因から指導者が生まれてくるのかについては議論が尽きない。
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1920年代のドイツ社会にはヒトラーを生み出す要因に満ちていた。そしてヒトラーが登場してこなければチャーチルも歴史に名を刻んでいなかったかもしれない。
トランプの手法は規範を破壊し、民衆の憎悪と不満を肥やしにして君臨することができた。その結果としてアメリカにある考え方を大きく2つに分断する結果となったが、このことを民主党は理解しない限り、このダメージから回復することはできない。
同時に共和党はトランプなきあとも「トランプ」的であろうとするだろう。
民主党は、トランプを支援した人々の不安や不満に対処しなければならない。高邁な理想から、階級化した経済的格差を是正することに全面的に努力をするべきであろう。
アメリカの分断は、世界の民主主義を弱らせ、その間隙を中国が進出することになる。それは、単なるグローバリズムとして片付けられる話ではなく、世界を不安定にし民主主義そのものを弱らせていくこととなる。
世界の前進に立ちはだかるのは「コロナ」だけではない。気候変動、飢餓、難民問題など、地球規模の問題を多く抱えているのに、先進国が自国回帰をしている場合ではない。
ポピュリズムの背景には、「格差(不満)」「脅威(不安)」が大きな要因になっていることは間違いのないところであり、それを解決できるのは、民主主義社会であるならば「政治」でしかない。
翻って日本の政治はどうだろうか?
「桜を見る会」の私物化、参加者名簿という公文書の破棄、嘘、言い逃れ。挙げ句にすべての不始末は秘書の責任とする元宰相と、その下僕を努めていた現宰相は、官僚の書いた原稿を読むだけで、一切のメッセージを発信できていない。
この状況は、民主主義が機能しておらず、官僚が日本を支えているだけで政治家は単なる民主主義の名を語った看板でしかない。
いまのところ、日本においては「格差(不満)」「脅威(不安)」が原動力となる「ヒトラー的あるいはトランプ的」な人材が登場していないだけで、「偉大な個人」が登場しさえすれば、歴史が変わる要因に満ちてきている気がする。
なぜならば、赤い野球帽をかぶったヒーローを担ぎ上げる以前に、「格差(不満)」「脅威(不安)」に怯える人々にとっては政治などには関心を持たないだけのことで、そうした「彼ら」の声が政治に反映されていないだけでしかない。
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つまり、野党は、そうした「彼ら」を救い上げることができれば、日本は変わる機会を得るだろう。組合を背景にした野党など、今の日本社会においては必要とされていないことに気付くべきである。
経済的、技術的、科学的には先進国の水準に達しているのかもしれないけれど有史以来、政治が真に民衆のものであったことなどないことが影響をしている。
東京大学を出て官僚になる。官僚の世界には知的エリートの巣窟であって、その中でしのぎを削るのも「彼ら」的には大いなる自己満足かもしれないけれど、程度の低い政治家にヌカずいて下僕をするというギャップはブラックユーモアでしかない。
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この官僚という能力をうまく使いこなせる「偉大な個人」の登場が待たれるが、今の選挙制度では小選挙区制であろうが中選挙区制であろうが甚だしく難しいであろう。
現下の低劣な政治を反省材料として、根本から考え直すきっかけにすることができれば菅総理の存在に価値を見出すことができる。