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漢詩01

胡隠君を尋ぬ

さぼ郎
漢詩

「漢文」というのに、こうした形になるのは漢ではなく唐の時代のようです。唐は618年から907年まで続いたようです。約300年ですね。

その間に、五言絶句、七言絶句、五言律詩、七言律詩の形が固まったとのことです。ちなみに遣唐使は菅原道真の提言で894年にやめることになったのだそうです。

正式には止めては見たものの、非公式には双方の交易は続いていたようです。

絶句の構造は、五言なら「2・3」、七言なら「2・2・3」となり、3の部分は「1・2」か「2・1」のような切れ目があるとのことです。

渡水復渡水 - 渡水 復 渡水
看花還看花 - 看花 還 看花
春風江上路 - 春風 江上 路
不覚到君家 ー 不覚 到 君家

こんな感じでしょうか。さらに細かなルールが有るようで、それが感じの「音」。律詩には「対句」と言うのもあります。絶句でも「対句」はあっても良いようですが、「ねばならない」というわけではないようです。

さらに、絶句の偶数行の末尾の音(ひびき)を揃えるというルールもあるとか。さらにさらに「平仄(ひょうそく)」というルールもあって、これになると、もう分かりません。いまさら、漢詩を作ることもなさそうですから、そこはあまりこだわらないようにします。

平仄:表で頭の部分を「表頭」とし、左の側を「表側」として説明しようとすると必ず出てきたのが「平仄」で、いままで「これ、何?」と思っていましたが、漢詩で一番重要で、かつ、一番難しいルールなのだそうです。

」:胡という隠者(世間とかかわらずに田舎でひっそり暮らしているヒト)。名前は「胡」問いヒトのよう。

」:中国では「川」のことだそうです。

」:日本で「花」といえば「桜」ですが、漢文では「桃」だそうです。

江上」:中国では大きな川を北では「河」、南では「江」とするようです。例えば黄河、あるいは揚子江。

不覚」:思いがけず

この物欲の世界で、「隠者」などといえば、変わり者か偏屈親父と相場は決まっていそうです。そんな奴を敢えて尋ねてもろくなことにはなりそうもありませんが、かつての中国では、社会や体制に背を向けて山村で自給自足しながら思索にふけるようなヒトが少なからずいたようですね。

我らが荘子先生も、山村にこもり草鞋を作っていたと書かれています。

作者である高啓というヒトを夏目漱石は好きだったようです。漱石には、この「尋胡隠君」にならって、自作の漢詩があります。

渡盡東西水
三過翠柳橋
春風吹不斷
春恨幾條條

漱石にとって何が「春恨」なのかを説明した解説が見つかりませんが、ようするにあの時代の小説家や政治家、軍人、つまり教養人と言われる人々には漢文の素養があったわけです。

文化、文明、民族、思想、法律、経済、資本、階級、警察、分配、宗教、哲学、理性、感性、意識、主観、客観、科学、物理、化学、分子、原子、質量、固体、時間、空間、理論、文学、電話、美術、喜劇、悲劇

これらは幕末以降の和製漢語だそうです。高島俊男さんによれば、
江戸時代以前に成立した「三味線」などは耳で聞いて意味が明確である。一方で、明治以降に造語された「真理」などは「心理」、「審理」、「心裡」と紛らわしい。
明治以降に造語された和製漢語は中国人が見ても文字から意味が推測できるのに対して、江戸時代以前の和製漢語はそれが非常に困難である。
とのことです。

なんにせよ、漢文の素養があるからこそ、和製漢語を造語することができたわけで、カタカナで表す言葉が溢れていることは、造語力が低下しているからだと思うのです。

特にITなどは、安易に英語をカタカナに置き換えているだけで工夫する力もありません。

漢字二文字で表す言葉の持つ意味は、意味の抽象化に大いに役立っていると思います。

文献から言えることでは、日本人が漢字に接するのは紀元前1世紀頃のことだそうですが、本格的に取り組みだすのが6世紀で、8世紀には東大寺を木像で作り大仏を鋳造しています。

この2世紀の間に訓読が完成し、平仮名、カタカナが作られていくようです。漢字と平仮名と中国文学を前提に、平安時代には世界に類を見ない女流文学が開花します。

漢文を訓読することで日本語としていったことが、幕末・明治の国力を支えていたことは間違いのない事実で識字率だけのことではなく、漢字を訓読することで持つ語彙の抽象力が、日本人の思索の原点でもあり、規範の原点にもなっていたと思っています。

アメリカ

小学生から英語をならうことのメリットとデメリットを考えると、遥かにデメリットのほうが大きいように感じてしまいますが、そもそもで考えてみると、今の世で漢文の素養がある人というのは、漢文の先生くらいでしか無いので、社会からすればデメリットはさほど無いのかもしれません。

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