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科学

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要素還元的アプローチの限界

さぼ郎
「要素還元的アプローチでは無理がある」というのは、武部貴則さん。彼はiPS細胞から臓器を作る研究のパイオニア。肝臓の立体組織を自律的に作ることに成功して一躍トップ研究者として名を馳せています。

武部貴則
横浜市立大学にリンク ↑

臨床医を目指していたが、再生医療で成果を出し博士号を取得しているわけでもないのに助手になり准教授になっている。米国の研究採用担当者は「博士号はその人の価値がはっきりしない時には必要だが、価値が明確な人には不必要」と言われ、博士号を取得するより研究に時間を費やした。

日本の社会は、とどのつまり、戦前からの伝統なのか「ハンモックナンバー」が一つの尺度になっていますが、実力主義にすると朱子学に基づく序列という秩序が乱れ、ひいては組織運営にも影響が出るというのが日本伝統の考え方のようです。
ハンモックナンバー(兵学校同期生間の先任順位)は、兵学校の卒業席次やその後の勤務成績によって決められ、同階級に任じられ、同じ軍艦などで勤務する同期生の間にも、先任・後任の区別は厳然として存在し、軍令承行令による指揮系統の序列はもちろん、式典での整列の際などでもハンモックナンバーの順に並んだ
ハンモック

そういうことも含めて武部さんは、1年の半分をアメリカはオハイオのシンシナティ小児病院で研究しているのだそうです。ちなみに教授職が900人もいる巨大組織のようです。

シンシナティ小児病院で研究する理由は明確で、研究速度が早いこと、ハンモックナンバーにかかわらず議論し示唆を与えてくれるのだそうです。また、他分野との壁も低く、彼の研究は日本より早く進むとのことです。

武部さんの基礎研究のアプローチは「要素還元的アプローチでは既に無理がある」ということで、全体の俯瞰が必要だそうです。

というのは、肝臓は肝臓だけが単独に発生するのではなく、胆嚢、膵臓と一緒に発生するのだそうで、そのメカニズムはわかっていません。再生医療は、究極的には周辺の隣接した臓器や環境も一緒に作ることが必要になるとの考えだそうです。

彼の怜悧な頭脳では日本の再生医療はいずれ壁に突き当たるであろうことを予測しており、その時に打開ができるようなサイエンスを進めていきたいのだそうです。

さて、「要素還元的アプローチでは既に無理という言葉を見て、昨日見たばかりの自動車の自動運転のセンサー技術を思い浮かべました。

センサーシステム
ルネサスのシステムにリンク ↑

というのは、ドイツの自動運転に関するセンサー技術がとても進んでいてニッサンやマツダでも取り入れられているようです。そのセンサーが、単品ではなく、システムとして機能するような販売形態でした。

つまり、「自動運転」といえば自動車メーカーで要素研究をし、きちんと設計しテストして部品(要素に分解し)をそれぞれのメーカーに発注して組み上げるというようなヒエラルキーを組み上げて今まで来ているようなのですが、そのドイツメーカーのセンサー技術では、「自動運転センサー」という仕組み(システム)をそっくりそのままハードもソフトも組み込むだけの売り方のようです。

有る意味、ブラックボックス化してしまい、それが果たしていいのかは不明ですが、各社が各様に基礎研究から実用レベルまでつくり上げるとするなら、やはりコストと期間という問題を常に抱えることとなります。

これから先の超・先端的研究において、それは医療であれ工業であれ、全容が複雑になるに従って、ヒエラルキーでの対応は効率が悪くなっていくことが予想されます。

壁

人材の登用も含めて、だんだん、ハンモックナンバーや出身大学というような形骸化されたステータスの壁は低くなっていく社会が到来しそうです。なぜなら、膨大な記憶や学習、それらから判定される推論、判断などは、どんどん人工知能化されてくれば、およそ不必要な尺度になっていき、もっともっとフラットな社会が来そうな予感がします。

2018.2.2 追記

武部貴則さんは、最年少で教授になったと最近の記事で話題になっていました。

「要素還元的アプローチ」というのは、単純な言い方をするなら「帰納法」のことだと思います。

また、「他分野との壁も低く」という点に関しては量子アニーリングをこなんした西森秀稔さんも、同様の意見を書いています。

日本が高度成長期に大いなる発展ができた背景の一つには、たしかに天才的な技術者(科学者よりは技術者)が多かったことがありますが、彼らの天才たる所以のヒラメキから演繹的に開発をした点が大きく寄与したのだと思います。

そうした時に、帰納法的に組織だって物事を解決する力が、かつての日本にはあったように思います。

いま、まさに、アメリカのIT業界におけるイノベーションが、一部の天才だからできる発想から演繹的に計画し、それを技術集団が帰納的に解決するという循環を、仕組みとして確立しているような気がします。

さらにいうならば、そこに資金が集められるという社会的な仕組みも大きく寄与しています。

今の日本に、いくつも欠けていることがあって、イノベーションが起こりにくくなっているのはないかと危惧します。

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